イヴの時間のオリジナル版と劇場版の違いとそれぞれの魅力を徹底解説

イヴの時間のオリジナル版と劇場版の違いとそれぞれの魅力を徹底解説

みなさんは『イヴの時間』というアニメーション作品をご覧になったことがありますか?『イブの時間』は、人間型ロボット(アンドロイド)が実用化された未来の日本を舞台に、アンドロイドが人間社会のさまざまな分野に進出してさまざまな社会問題が起こる中で、男子高校生の主人公・リクオが「人間とロボットを区別しない」というルールを掲げた不思議な喫茶店で出会う「ヒトビト」との交流を描いた作品です。

実は、この『イブの時間』にはネット配信された「オリジナル版」と再編集されて劇場公開された「劇場版」の2種類があります。オリジナル版と劇場版のどちらも作品としての完成度が非常に高く、どちらから観ても楽しめるようになっています。そこで今回は、『イヴの時間』のオリジナル版と劇場版の違いとそれぞれの魅力を徹底解説します。

イヴの時間の「オリジナル版」と「劇場版」

『イヴの時間 Are you enjoying the time of EVE?』は、アニメーション作家の吉浦康裕氏が原作・脚本・監督を務め、少人数による制作体制で2008年に全6話構成のショートシリーズとしてネット配信、2010年に再編集されて劇場公開されたアニメーション作品です。

物語は、人間型ロボット(アンドロイド)が実用化された未来の日本で、男子高校生の主人公・リクオがハウスロイドのサミィの不審な行動記録を見つけ、友人のマサキと共に行き先を調べると「イヴの時間」という不思議な喫茶店にたどり着くところから始まります。その店では、「人間とロボットを区別しない」というルールの下で誰もが人間として振る舞っており、見て目では人間とロボットの区別がつかなくなっています。『イヴの時間』は、そんな場所で出会う「ヒトビト」との交流を描いた作品です。

『イヴの時間』には、GYAO!やニコニコ動画などで期間限定で配信された「オリジナル版」と、オリジナル版に新規カットを追加して再編集した「劇場版」の2種類があります。オリジナル版が各話15~25分の全6話で構成されているのに対し、劇場版は106分に収められています。しかし、オリジナル版と劇場版のどちらも作品としての完成度が非常に高く、どちらから観ても遜色なく楽しめるようになっています。

そこで今回は、『イヴの時間』のオリジナル版と劇場版の違いとそれぞれの魅力を各話ごとに徹底解説します。また、あにぽーたるでは同じく吉浦監督が原作・脚本を務めた『アイの歌声を聴かせて』との違いとそれぞれの魅力も徹底解説しています。詳しくは下記の記事をご参照ください。

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オリジナル版と劇場版の違いとそれぞれの魅力

オリジナル版『イヴの時間』は、各話15~25分の全6話で構成されており、それぞれに「act[話数]:[主要人物の名前のローマ字表記]-イヴの[漢字2文字のテーマ]-」という形式のサブタイトルが付いています。各話サブタイトルは以下の通りです。

オリジナル版『イブの時間』の各話サブタイトル

  1. act01:AKITO - イヴの時間 -
  2. act02:SAMMY - イヴの仲間 -
  3. act03:KOJI&RINA - イヴの恋人 -
  4. act04:NAMELESS - イヴの人形 -
  5. act05:CHIE&SHIMEI - イヴの旋律 -
  6. act06:MASAKI イヴの絆 -

今回は、この6つのエピソードでオリジナル版と劇場版にどのような違いがあるか、その違いによってどのような魅力があるかを徹底解説します。

act01:AKIKO - イヴの時間 -

第1話「act01:AKIKO - イヴの時間 - 」は、主人公のリクオが友人のマサキと共に初めて「イヴの時間」を訪れ、そこでウェイトレスのナギと常連の「アキコ」という明るくおしゃべりな少女に出会うお話です。

第1話におけるオリジナル版と劇場版の大きな違いは、劇場版の冒頭にアンドロイドの開発を行う政府研究機関「APC(Android Promotion Committee)」の主任研究者である芦森博士と職員のセトロとの会話シーンが追加されていることです。このシーンでは、芦森博士がセトロに依頼して「コード1138」の情報発信源、つまり「イヴの時間」を特定した際に受信機体として、かつて自らが強制停止した「CODE:LIFE」の実装実験に使われた機体「セイム(サミィ)」がいたことを知ります。

劇場版では、このシーンが追加されていることで、セトロがどのような経緯で「イヴの時間」を内偵していたのか、サミィと芦森博士、そして謎の人物・潮月にどのような繋がりがあるのかが分かりやすくなっています。また、サミィが保護観察対象として関係職員であるリクオの父親の家にいることも知ることができます。オリジナル版は各話ごとに各キャラクターにスポットを当てているのに対し、劇場版は全体を通してサミィに焦点を当てており、サミィをより知ることができる作品になっているのです。

また、第1話と第2話の間には、リクオとマサキが初めて「イヴの時間」を訪れた際に先に入店したアンドロイドが潮月の家に帰宅するシーンが挿入されています。このアンドロイドは、オリジナル版では店内で一杯飲むとすぐに店を後にし、それ以降登場することはありませんが、劇場版ではこのシーンが追加されていることで、このアンドロイドが潮月から何かしらの命令を受けて「イブの時間」を訪れていたことが分かるようになっています。

act02:SAMMY - イヴの仲間 -

第2話「act02:SAMMY - イヴの仲間 - 」は、ハウスロイドの「サミィ」が「イヴの時間」に通っていることを怪しんだ主人公のリクオが友人のマサキと共に店で張り込みをするお話です。

劇場版では、マサキと「イブの時間」を内偵していたセトロとの会話シーンに怪しいBGMが追加されています。オリジナル版では無音になっていますが、劇場版ではこのBGMが追加されていることで、セトロがただの一般客ではなく何かしらの裏があることを感じられるようになっています。

act03:KOJI&RINA - イヴの恋人 -

第3話「act03:KOJI&RINA - イヴの恋人 - 」は、「イヴの時間」の常連となった主人公のリクオと友人のマサキがウェイトレスのナギの計らいで「コージ」と「リナ」というカップルと同席することになるお話です。

オリジナル版の冒頭ではコージとマスターの女性がベッドで寄り添うシーンやリナが要人警護をしているシーンが流れますが、劇場版ではハウスロイドのサミィがまるで人間のように鏡の前で髪を結び、カチューシャをして楽しそうにおしゃれをするシーンに差し代わっています。上述したように、劇場版は各チャプターの主要人物ではなく全体を通してサミィ一人に焦点を当てており、このシーンが差し込まれていることで、実は「イブの時間」の外でも人知れず人間らしい表情や仕草を見せていたことが分かるようになっています。なお、オリジナル版でもリクオにコーヒーを褒められた際にうっすらと笑みを浮かべていますが、劇場版ではそれ以上に表情豊かなサミィを見ることができます。

なお、劇場版ではセクサロイドに関する討論番組のシーンがカットされていますが、これはコージとリナというカップルを描く上で必要な演出であって、サミィを描く劇場版ではあまり必要ないと感じたからでしょう。オリジナル版では、この討論番組のシーンが描かれていることで、コージがアンドロイドに精神依存する「ドリ系」であるとより錯覚しやすくなっています。

act04:NAMELESS - イヴの人形 -

第4話「act04:NAMELESS - イヴの人形 - 」は、主人公のリクオと友人のマサキが「イヴの時間」にやって来た今にも壊れそうな旧式ロボット・カトランの人間たろうとする振る舞いに振り回されるお話です。

劇場版では、第3話と第4話の間にハウスロイドのサミィが過去の記憶(記録)を遡るシーンが追加されています。このシーンでは、サミィの視点から見た劇中の記憶だけでなく、サミィが「Are you enjoying the time of EVE?(イヴの時間を楽しみませんか?)」というメッセージを受信して初めて「イブの時間」を訪れたときの記憶や、サミィがリクオの家に来て間もない頃の楽しい記憶、そしてAPCの主任研究者である芦森博士に強制停止させられる苦い記憶も垣間見ることができます。つまり、劇場版ではサミィがどのような軌跡を辿って来たのかをより知ることができるのです。

一方、劇場版ではカットされていますが、オリジナル版ではリクオと姉のナオコが「最近、父親の下にハウスロイドの是非や回収費用に関する変なクレームが多い」という趣旨の会話をするシーンが描かれています。これは、第4話で描かれる高額な回収費用が原因の不法投棄問題や第6話で描かれるロボットやアンドロイドを危険視する倫理委員会の存在を暗に示す役割を果たしています。

また、オリジナル版では、教室でクラスメイトたちがハウスロイドやその回収費用について話をしており、それを後ろで聞いていたマサキに隣の席のカヨが「興味あるのか」聞くシーンが描かれています。これも、第4話で描かれる不法投棄問題や第6話で描かれるマサキとハウスロイドとの確執を暗に示す役割を果たしており、第4話から第6話にかけての「セカンドシーズン」を物語る上で重要な伏線となっています。

そのほか、劇場版では第4話の終盤でサミィがカトランとカトランのマスターとの記憶を受け取り、それをきっかけに昔好きだったリクオが弾いていた「やさしい時間の中で」という曲の楽譜をリクオの部屋から持ち出すシーンが追加されています。オリジナル版ではこの経緯が具体的には描かれていないので、劇場版はサミィの視点でそれがより分かりやすくなっています。

act05:CHIE&SHIMEI - イヴの旋律 -

第5話「act05:CHIE&SHIMEI - イヴの旋律 - 」は、いつも一緒にいる保護者の「シメイ」がおらず一人寂しくしている「チエ」という少女を主人公のリクオが不意に傷つけてしまい、自己嫌悪に陥るお話です。

オリジナル版では第5話の終盤にマサキが自宅に帰宅するとハウスロイドのテックスが廊下で静かに佇んでいるシーンが描かれていますが、劇場版ではこのシーンにそんなテックスをマサキが悲しげに見つけるカットが追加されています。これにより、このときにマサキが抱いていた感情がオリジナル版よりも分かりやすくなっており、第6話により自然につながるようになっています。

act06:MASAKI イヴの絆 -

第6話「act06:MASAKI イヴの絆 - 」は、ロボットとの馴れ合いが嫌になり「イヴの時間」に行かなくなった友人の「マサキ」が、主人公のリクオから「THX型(マサキの家のハウスロイドと同じ)のロボットが店に来て困っている」という連絡を受けて再び店を訪れるお話です。

物語の終盤では、APCの主任研究者である芦森博士に「イブの時間」を内偵していた職員のセトロが調査報告を行うシーンが描かれますが、このシーンがオリジナル版と劇場版では大きく違います。再アフレコがなされている点もありますが、とくに大きな違いは「コード1138」の詳しい説明が劇場版ではなされている点です。これにより、なぜ「イブの時間」ではアンドロイドたちがロボット法を超えて自由に振る舞うことができていたのか、そしてなぜ芦森博士は「イヴの時間」に謎の人物・潮月が関与していると断言できたのかが視聴者に分かりやすくなっています。

また、劇場版全体を通してはサミィに焦点が当てられているのに対し、劇場版の終盤では「イヴの時間」のウェイトレスであるナギに焦点が当てられています。まず、リクオが「これが僕のイヴの時間での物語」と締めくくる際にリクオから見たナギの後ろ姿のカットが追加されており、その後のエンディングクレジットではナギの過去がスライドショーで明かされています。さらに、オリジナル版では最後にハウスロイドのサミィとリクオの姉のナオコが打ち解けるシーンが描かれていますが、劇場版では自宅に帰宅したナギが潮月に「イブの時間」であったことを話すシーンに差し替えられています。これにより、ナギや「イヴの時間」と潮月がどのような関係なのかが分かり、オリジナル版より謎が明かされて物語として一応の完結を見ることができるようになっているのです。

まとめ

いかがでしたか?『イヴの時間』はオリジナル版と劇場版のどちらも作品としての完成度が非常に高いながらも、それぞれに違った魅力があることが分かったかと思います。もしオリジナル版は観たが劇場版はまだ観ていない方や、逆に劇場版は観たがオリジナル版はまだ観ていない方は、ぜひオリジナル版や劇場版もチェックしてみてください。どちらも素晴らしい作品です。

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